物事を相対化するということ

『社会派ちきりんの世界を歩いて考えよう!』

 

久しぶりによい本を見つけたので、書いてみる。

 

筆者のちきりんは、素人に近い視点から社会問題を語るアルファブロガーとして評価が高いけれど、私はあまり好きじゃない。

 

というのも、わかりきったこと、答えの出ていることをわざわざイチから考えてみせるようなところがあって、思考実験として面白い部分はあるにせよ、それって専門的な知識を持ったうえで議論すべきじゃない? と思ってしまうことが多いからだ。

 

でも、いままでに50ヶ国以上の国を訪れたという筆者の体験がもとになったこの本はちょっと違う。その国々で体験したエピソードをもとに、普段私たちが当たり前だと思っていることが、決して世界の常識ではないことを教えてくれる。

 

たとえば、インドで旅行者が現地民に求められる数々の「施し」は、社会保障機能の代わりだ、と筆者は説く。インドでは、個人から個人への直接的な施しが、「富の再配分制度」の代替機能を果たしているのだ、と。経済格差を解消するのは国の役目だと思い込んでいる、われわれの常識は覆されるだろう。

 

そう、海外で体験して「自分の頭で考え」たことだから、話にリアリティがあるし、私たちは筆者が感じてきた価値観の揺さぶりを追体験しながら、海外で見識を広めるとはこういうことなのかと思うに違いない。イチから物事を考えてきた筆者だからこそできた、世界遺産巡りやグルメツアーで終わらない21世紀の海外見聞録がここにはあると思う。

 

最後に筆者は、「海外旅行なんて好きな人だけすればいい」と、いつものようにゆるく締めているけれど、海外を旅行しないなんてもったいないと思わせるだけの内容が本書には詰まっている。